一緒に風呂に入ったことなど、星の数ほどある。
一緒の布団で寝たことだって、しょっちゅうだ。
けど……だけど、だ。
いざ男鹿が脱ぐのを見ていたら、急に心臓がばくばく鳴りはじめた。
どうしよう、どうしよう。
さっきからオレの頭はどうしようばかりがグルグルと回っている。
男鹿の裸なんて見慣れてるのに、そういう目で見ると不思議と目のやり場に困る。
どこを見ても、いけないものを見ているような後ろめたさがあって、俺はどういう風にするのが自然なのか、もはやわからなくなっていた。考えれば考えるほど思い出せなくて、目が不自然に泳ぎ、動きがぎこちなくなる。
極限という言葉はまさに今のオレのためにあるようなものだ。
「おい、古市」
「なっ、何!?」
男鹿の手が、すっと伸びて来る。
男鹿は男鹿のはずなのに、そこには俺の知らない男鹿がいた。
俺はいたたまれなくて目を逸らした。
なんか口から出そうだな。
叫びたい。
もう許容量オーバーだ!
「お、男鹿! やっぱ無理だわ俺!」
「はぁ?」
何をいまさら、と文句を言いたいのだろう。気の抜けた男鹿の反応に緊張感が一瞬溶ける。
「なんか苦しくなってきた。心臓爆発しそう」
異常な速さで心音が鳴っている。
そう言うと男鹿はアホ面をした。俺の知っている男鹿がいて、安堵する。
正直に言おうか。俺はちょっと怖かったのだ。
馬鹿男鹿が急に男に見えたから、びびったのである。
あと悔しいのもある。男鹿について知らないことはないと自負していたのに、見たことのない顔をするから。
「馬鹿か」
男鹿が俺の手を取った。
「え、何」
「ほれ」
男鹿の胸まで先導され、ぺたりと手をつく。
俺と同じくらいの速さで脈打っていたので思わず笑ってしまった。
すると男鹿がムッとして俺の頭をはたいた。
「こっちも必死なんだっつの!笑うなっ!」
「痛っ」
「あー、もう…」
男鹿が照れ臭そうに頭をかく。
「だから、気にすんな」
何を、と問う間もなく、肩を掴まれ押し倒された。
倒れた上に馬乗りされては、俺はもう動けない。
「ちょっと待てってば! 心構えがまだ…!」
出来ていない。
「知るか。そんなもん出来るのを待ってたらいつになるかわかんねーだろ」
「いや、でも、でも……!」
「こんなもん勢いだろ、勢い」
俺はお前みたいに潔く腹決まらねーんだよ、と言いたかったが、言う前に近づいて来た男鹿に口を塞がれた。
あくまで抵抗しようと、わーわー騒いだ両手は、あっさり捕らえられて頭の両脇に縫い止められる。
あー、もうどうしよう。
どうしようもないな、こりゃ。
うん、もうどうにでもなればいいや。
男鹿の言う通り、こんなのは雰囲気と勢いだ。
オレは考えるのをやめにして、オレの手を掴んでいる男鹿の手をぎゅっと握り返
した。