swell with you !

今晩、家に誰もいないから泊まりに来るか、という誘いは、あまりにも下心が見え透いてはいないだろうか。
オレは通話を切ってから、猛烈に後悔し始めた。なんでそんなこと言っちゃったんだろ。
何故かと言えば、そりゃ男鹿が何も言い出さないからだ。オレは今か今かと気が気でなくて、清水の舞台から飛び下りるような覚悟で待っていたのだけれど、男鹿はあれきり進展させるつもりがないのか、そういう話題には一切触れず、何事もなかったかのように自然に振る舞っている。

それはそれで安堵する一方で、だったらオレの覚悟は何だったのかと思うと何だか悔しい。一人でグルグルと、男鹿とどうするのか、について考えていたオレの一週間は何だったのだ。まるで無為だったのかと思うと腹が立つし、このままでは数年間腐れ縁を続けて来た関係と何ら変わりがないことに不安を覚えたオレは、また散々考えた末に、男鹿が言わねーならオレが切り出すしかねーという結論を導き出した。

そうと決めると、さっそくお誂え向きのようなチャンスが巡って来る。父親が田舎に帰ると言い、家族もついていくことになった。父親は一家総出で行くつもりだったようだが、オレは課題を理由に居残り宣言をし、あっさり一人置いていかれることが決定したため、かくして家はオレを残して空っぽになり、オレは男鹿に件の電話を入れたのである。


来るか? と問えば、男鹿はあっさり行くと答えた。

それから男鹿が来るまでの間、オレは変な汗が出るほどえらく緊張していた。人生最大の緊張感じゃないか、というくらい、気が張り詰めている。

初めて女の子をデートに誘うのだって、もっと気楽にやれたはずなのに。

大丈夫か、オレ。
これでいいのか、オレ。
相手はあの男鹿だぞ?
男鹿でこれってどうなの?

どうなの、と言ってみても、どうにもならない。
だた時計の針だけが、カチコチと静かに響いていた。

結局オレはリビングを無意味に行ったり来たりしながら男鹿を待った。


やがてピンポーンとチャイムが鳴る。
とうとう男鹿のお出ましだ。


オレははやる心臓を抑え、玄関に出迎えに行った。

end
2010/08/26 また尻切れトンボでさーせん