予定調和

今にも土砂降りが降りそうな暗雲が立ち込めている。
そこに、何度目か知れぬ重たいため息。
「はぁ〜あ」
「ねぇ、カズ君、ウザイ」
梓は隣を歩く男の背中を思い切りど突いてやった。
よっぽど元気がないのか、それしきで和也の足元はよろよろとよろめく。
「はぁぁぁ」
「もう、何なのよ。ちょっと一言、言われただけでしょ」
男鹿に。ウザイ、と。
そんなの、いつものことじゃないか。
それなのに、和也は懲りずに落ち込んでいる。
梓にはちっとも理解できなかった。
「イチイチ一喜一憂しないでよ」
いい加減に励ましてやるのも面倒になった梓は、牛歩のようにとぼとぼと歩く和也を置いて、帰り道を先へと進んだ。
「あっ」
頬に、ぽつりと水滴が落ちた。
……雨。
空を見上げる。
やがて灰色の雲から、さあさあと雨が降り始めた。
梓は慌てて鞄から折りたたみ傘を取り出した。
道を振り返ると、小さくなった和也が向こうにいる。
雨が降るのもお構いなしに、しょんぼりと歩いていた。
「もぉぉ、仕方ないなぁ」
梓は来た道を戻り、ひょこひょこと和也に駆け寄った。
傘を半分、差しかけてやる。
「カズ君、傘は?」
「ない」
「ん!」
「ん?」
梓は傘の柄を和也に握らせた。
「梓ちゃんは優しいから、傘、一緒に入れてやるんだぞ」
「で、何で俺が持つんだよ」
「んなの当たり前でしょう、あんたの方が背が高いんだから」
「そっか」
置いて行けばいいのに、やっぱりこうなるのか、と梓は他人事のように思った。


end

2010/07/29