喪失

「ホントにいなくなっちゃったんだなぁ」
古市がしみじみと言う。
「ああそうだな」
「来た時も急だったけど、いなくなる時も急だったな」
「ああそうだな」
あさっての方向を見ている男鹿の目の前に、古市が顔を出す。
「ちょっと寂しい?」
「はぁ? 誰が」
「男鹿が。だって何だかんだ言いながら、ずっと一緒にいたのにさ、もういないんだぜ? 寂しくない? ヒルダさんも一緒にいなくなっちゃったわけだし」
「てめーはあの乳と足が好きだっただけだろ」
男鹿は、ずい、と身を乗りだす古市を退けた。
退けられた方は、むぅ、と口をとがらせる。
「男鹿だってベル坊のこと可愛がってたくせに」
「んなわけあるか」
「ホントかよ」
「ったりめーだろ。せいせいすらァ」
そう言って男鹿は立ち上がり、伸びをしながら階段を下りた。
正面から指す朱い夕日の眩しさに、古市は額に手をかざす。
逆光になった男鹿の背中が、どこか物足りないように見えたのは、あるいは暮れなずむ太陽のせいだったのかもしれない。


end

2010/07/22 ベル坊が魔界に帰っちゃったら! っていう、ね。