※えろいことをさせたいのに本番までたどり着けずぐだぐだしてるだけです








大事なこと

 扇風機が、ぶうんと回っている。二人でひとつの部屋にいるのは無意味だと思えるほど、オレたちはそれぞれ勝手なことをしている。男鹿はベッドにひっくり返って寝ているし、オレはさっきから携帯電話をピコピコといじり倒している。
 まるでお互いがお互いを無視しているのだから、さっさと自分の家に帰ったらどうだ、と思わなくもないが、どういうわけだか離れがたい。多分そこに存在していることに意義があるのだ、きっと。
 寝ている、とばかり思っていた男鹿が、むくりと起きた。おもむろに床に降りると、そこにちょこんと座った。

「ちょっと古市くん。ここ座んなさい」

 古市くん、だぁ?

 オレはにわかに眉をひそめた。正座をした男鹿は膝の前方をタンタンと叩く。
 こいつがかしこまるというのは正直いただけない。嫌な予感しかしなかった。こういう男鹿は、よほどテンパっているか何かロクでもないことをたくらんでいるかのどちらかだ。今この落ち着いた状況でテンパるとは考えにくいので後者である可能性が高い。
「何だよ」
 怪しい目つきになりながらも一応言うとおりに従って、男鹿の前に座る。馬鹿馬鹿しいと思いながら、何故かオレもつられて正座。男鹿は、ふむ、と腕組をした。
ふむ、じゃねーよ。
「オレ考えたんだけど」
 という男鹿の一言で、やっぱりこいつは何かどうしようもないことをたくらんでいるな、と確信を得た。考えなしの男鹿が頭を使うと、大抵ロクなことがないのは経験上よく知っている。
「いや、男鹿、わかった。もういい。皆まで言うな」
「まだ何も言ってねぇ!」
「聞かなくてもいいことだということは、何となくわかる」
「いや、わかってねぇよ。聞けよ」
「どうせ、くだらんこと言うだろ」
「いんや、大事だね!」
 男鹿が思わず力を入れて床を叩いた。有無を言わせず睨むので、しょうがないから聞くだけ聞いてやろうじゃねーか。
「……何だよ」
「オレはお前が突っ込まれるべきだと思うんですけど、どーですか」
「は?」
 どーですか、って何がどうなんだ。まったくもって脈絡がない。ボケとツッコミならお前が突っ込まれる方だと思うけど、という切り返しは、くだらないのでやめた。そういうことではないだろう。脈絡がないなりに、何となくわかってしまった。わかりたくもないが。
 オレの頭にはHの1文字が浮かんでいた。
 暑さで頭沸いてんじゃねーのか、とアホらしくなる。脈絡がないのに通じてしまうのは、オレもそういうことばっかり考えているからに違いない。つまりオレも男鹿と同じ穴のムジナという奴だ。だから、何を考えてんだ、と人のことは言えない。
 そう思いながらも、
「何の話?」
 と、わざわざ聞いたのは、万が一これが勘違いだったら末代までの恥なので、百パーセントの確証を得るまでむやみなことは口に出来ないからだ。男鹿にはっきり言わせないと。
「だから、えっちするときどっちが受身になるのかって話」
 オレのためらいをよそに、男鹿はあっさりと白状する。恥じらいとか後ろめたさというものはないらしい。その潔さはまったくうらやましいものだ。
 オレにはそういう潔さはないので、こうストレートに来られると、たじろぐ。大事なこと、と言えば確かに大事なことだが、もうちょい勢いとか流れとかいうモンに背中を押されないとオレには言い出しにくい。だから、ついはぐらかした。
「つーか、今そういうこと聞くか、普通」
「でも、聞かなきゃ怒るだろ」
 それは正しいが、タイミングの問題だっつーの。もうちょっと雰囲気とかないわけ、雰囲気。お日様がてっぺんにいてグダグダと無為に過ごしているような昼間に言うべきことではないし、正座して向き合って話す内容ではないだろうに。
「今じゃなくてもいいだろっつってんの」
「なら、いつならいいわけ」
「もうちょっとこう、何かないの?」
「何かって何?」
「こう、アレだ、情緒的なもん」
「情緒的なもんって何だよ」
「何かあるだろ、そういうムード的なものが」
「んなもん、いつ来るかわかんねぇだろ。思いついた時に言わないと、またタイミング逃すだろーが」
 今がそのタイミングを大幅に逸している時だというのは男鹿には伝わらなかった。自分の感覚だけで生きてるこいつに、オレの気持ちは理解されないらしい。
「んで、どうすんの古市」
「どうもこうもあるか」
「あるだろ、お前は。オレはどっちでもいいけどよ」
「オレだってどっちだっていいよ」
「嘘つけ。お前、この前それで人のこと蹴り飛ばしたくせに。結構あれ痛かったんだからな」
「あー、まあ、それは悪かったよ、うん」
「だからノリでやってまた蹴飛ばされたんじゃたまんねーから、こうやって事前承諾とってんだろうが。で、結局お前はどっちがいいの」
「いやいや、待て。事前承諾っておかしかないか? 何で既にやること前提になってんの?」
「やりたくねーなら別にいいですー」
 男鹿がすね始めた。ベッドに戻って、うつ伏せに倒れこむ。
「いや、やりたくないわけでは……」
「じゃ、やりたいわけか」
「うん」
 と答えてから、しまった、と思っても遅かった。これじゃ誘導尋問だ。
 男鹿はしてやったりという笑顔。
「じゃ、やっぱ、どっちがどっちかはっきりさせよーじゃねーか」

 どうやらオレは捕まってしまったらしい。

end

2010/06/19 サーセン進まない続かない!