オレ、ばかになった気がする。
ほんとは気がするじゃなくて確信に近いが、どうしても認めたくないからあえて濁しておく。
だって、まだ半年だ。石矢魔のアホどもに揉みくちゃにされて、まだ半年。
それなのにもう馬鹿が感染ってしまったと言うのか?
半年前のオレは、もっと賢かったような気がする。
「ありえねぇ」
聖石矢魔に来て、これほどうちのめされたことはなかった。
「なんだ、古市。どうした」
「ありえねェェェ!」
「だから何が」
オレってけっこう勉強できなかったっけ。どっかの馬鹿と違って、成績はよかったはずだ。
そういや高校入ってから勉強したことなかったな。
大体うちの学校の授業は、予習復習テスト勉強なんてしなくても全然問題ない馬鹿レベルだから、オレはそれに甘んじて遊びほうけていたというわけだ。中学ん時はそれなりにやってたもんな。
あ、勉強ってやらないと馬鹿になるんだ。
「おい、古市。無視すんな」
「てめーにはわかんねぇよ、オレの気持ちなんか」
「聞いてみなきゃわかんねぇよ」
「英語がね……全く通じなかったんだよ」
「はぁ? どっかに外国人でもいたか?」
「違げーよ。教科書だよ。山村が予習してくんの忘れたっつーから、ちょっと貸してみろっつったら全っ然わかんねーの」
「それがどうした」
「ほら、やっぱお前にはわかんないだろ!?」
男鹿なんかに話したのが間違いだった。こいつは最初っから馬鹿だからな。
落ちぶれていく者の虚しさなんてわからねぇんだ。
「男鹿……、オレ勉強するわ……」
「熱でもあんのか?」
「ねぇよ。やめろ、でこ触んな」
男鹿の手を振り払う。オレだってやりたかねーよ、勉強なんて。
だけど、オレには他にない。
勉強はゼロの奴でもやったらやっただけ偉くなる。ケンカはそうはいかない。
ケンカで強くなるためには、男鹿がそうであるように、ほとんど生まれもった才能というか本能みたいなものが必要だ。
オレはそんなもん持ってねぇ。
そんなら、オレから勉強取ったら何が残る? 何にも残んねーじゃねーか。
それが怖い。
何もないオレはきっとただのお荷物だ。
男鹿を馬鹿にできなくなったらオレはおしまいなのだ。
「お前と馬鹿やってると、将来めちゃくちゃだわ」
「石矢魔に来た時点で、もう半分以上めちゃくちゃだけどな」
「男鹿にしちゃ、まともなこと言うじゃねぇか」
「そりゃどーも」
というわけで智将古市、勉強します。
end