「あっちいなぁ……」
ついこないだまで春だと思っていたのに、太陽がガンガンと照りつけている。
上から照らすだけではなく、アスファルトに反射して下からも熱光線を浴びせている。
空とアスファルトにサンドイッチされてはたまらない。
「おい、男鹿。コンビニでも行くか」
夏にはまだ早いけれど、シャーベット的なものが食いたい気分だった。
「おい、男鹿……」
返事がないので、オレは隣を歩く男鹿を振り返る。
すると、男鹿はイライラしてオレを睨んだ。
「暑いとかゆーな」
「は?」
「暑いとかゆーな! もっと暑くなるだろ!」
何が気に食わないんだか知らねーが、よっぽど虫の居所が悪いらしい。
「古市くん。君にはわかるまい。この苦悩が!」
男鹿は背中のベル坊を掴んだ。ベル坊は急に引き離されて目を丸くする。
「あちぃんだよ、こいつがいると! ちょ、お前も抱っこしてみろ!」
「わっ」
男鹿がベル坊をオレに寄越す。肌の触れ合う部分が汗を掻いてぺたぺたする。
子供は体温が高いというが、確かにそうだ。
ただでさえ暑いのに、さらに熱気がこもる。
「あー、涼しい」
男鹿は解放されて、のんきに伸びをする。
あ、やばい。
オレの腕の中では、さっそくベル坊がグズり始め、前を歩く男鹿に手を伸ばしてオレからの脱出を試みようする。どうやらぺたぺたして気持ち悪いと感じているのはオレだけではなく、ベル坊も同じようだ。
そうだよな。お前の居場所はやっぱりここだよな、うん。
男鹿の背中に、そっとベル坊を戻す。
「うわ! 何すんだ古市!」
「ベル坊はお前んとこがいいってさ」
「いやだ! はーなーれーろー!」
「アダー!」
男鹿は自分の背中を掴もうとして、その場でくるくると回りだす。
ベル坊はイヤイヤをして、もう離されまいと、必死にしがみついた
その様子を、道行く人々が遠巻きに白い目で見ていた。
オレは他人のふりをして、平和だなぁ、と呟いた。
夏はまだまだこれからである。
end