もれなく付いてくる

いささか即物的すぎるようにも思うのだが、所詮、男子高校生の頭の中なんて即物的にできているから仕方がない。つまり何かってーと、要するに問題はいかにしてやるか、だ。もちろんエロいことを。

俺の頭はそんなことでいっぱいである。

けれど、目の前には大きな、いや、小さな壁が立ちはだかっていた。


「だー!」
 今日のベル坊は男鹿からひっぺがしても機嫌がよさそうだった。
「よーしよし、おいでおいで〜」
 オレはベル坊をオモチャで釣って、ちょっとずつ後ろへ下る。ベル坊はぺたぺたと床をハイハイしてオレの後について来る。

男鹿はというと寝っころがって漫画を読んでいる。オレやベル坊なんて、気にも留めていない様子だ。
 
「あー」
ベル坊がオモチャに手を伸ばす。オレはそのまま廊下を行く。

(よし、もうちょっと!)
 あと少しで男鹿から15メートル。家の中の距離は大体把握している。
 
 そこまで来て、ふとベル坊の動きが止まる。調子よくオレを追ってきていたのに、急に何もない後ろを振り返った。ここから男鹿の姿は見えない。

「おーい、ベル坊」
呼ぶと、ベル坊はこっちを向く。どうしようか迷っているようで、オレを見たり、後ろを振り返ったり、忙しい。

しばらくして、ベル坊はオレの方へ手をついた。

(よっしゃ! 来い!)

ベル坊がオレのひざをよじ登る。オレはベル坊をそのまま抱きかかえて、玄関を出た。それでもベル坊は平然としているし、電撃もない、男鹿の悲鳴もない。

お!? この距離は15メートルを越えたんじゃないか!?

新記録に心を躍らせていると、いつの間にか背後に男鹿がいた。

「何してんだ、古市」
「あれ!?」

 オレはベル坊と男鹿を交互に見比べた。
 なんだ、男鹿がいるんじゃねーか。どうりでベル坊は泣かないわけだ。

「くそ〜〜〜〜〜!うまくいったと思ったのに!」

 地団駄を踏む。これじゃあ意味がない。


「ったく。勝手にベル坊連れ出しやがって」
男鹿はむっとしてオレからベル坊を奪う。
「なんだよ男鹿! お前、漫画読んでたんじゃないのか!」
「だってベル坊がいなくなってるから」
「センサーでもついてんの?」

 ベル坊が男鹿から15メートルの所でぴたりと止まったように、男鹿もベル坊がいなくなると察知できるようになっているのかもしれないな。

「つーか古市、お前こそ何をしたかったんだ」
「模索中」
「は? 何を?」

ベル坊を男鹿から引き離す方法を、だ。
 
だって、こいつがいる限り、オレの野望は果たせそうにないのだ。

年中無休24時間、男鹿にぺったり。
それじゃあ男鹿に隙がない。それじゃ困る。オレのための時間がない。

「ま、大人の事情って奴だよ、男鹿くん」
「意味わかんねー」
「アダー!」

 やっぱりベル坊は、どうしようもなく男鹿とセットなのかもしれない。

end

2010.05.31