中学時代捏造。例の「古市が石矢魔に来た理由」云々のネタから。
はっきり言ってベタベタです







たぶん、好きなんだ

高校は偏差値主義だ。

頑張れば頑張っただけいい学校に入れるし、馬鹿は馬鹿なりのところへ行く。
俺はといえば、さっさと進学校への推薦を決め、早々に煩わしい受験戦争から戦線離脱してしまった。学校の推薦枠さえ取れれば、万が一にも試験で落ちるということはなく、俺の未来はすでに約束されたようなものだった。
一方、馬鹿と書いて男鹿と読む幼馴染は、素行が悪けりゃ顔も頭も悪いので、とうてい俺と同じ進路は望めまい。
 これでトラブルメーカーオガとの腐れ縁も切れるかと思うと、ニヤニヤ顔が緩むのも仕方がないというものだ。
「なあ、男鹿。お前、進路どうすんの」
「進路ね……どっかにゃー入れるだろ」
「入れねーよ。自分の顔と頭と素行の悪さ、わかってる?」
「いや、顔カンケーねーだろ」
「あるね。そのせいで俺がどれだけの被害を被ってきたことか」
関係ありません、なんて言ってもオレは信じない。世の中そう甘くはない。お前の喧嘩の理由は大抵その険悪な顔にある。その目つきが、喧嘩を売っていると勘違いされるのだ。そしてオレは、その男鹿の横にいるというだけで、いつの間にか渦中の人にされていることが実に多いのである。
「そりゃ古市の立ち回りがヘタなんであって、オレの顔はカンケーねーよ」
「なんだとぉ?」
「呼んでもいないのに、お前、いつの間にか加わってんだもん」
「だもん、じゃねぇよ。お前が巻き込んでるんだろうが。もしかして無自覚? 言っておくけどな、オレぁ、もうメンドーごとは御免だからな。推薦取ったんだから」
「推薦?」
「そ。高校の」
そう言うと、男鹿はぱかっと口を開けて固まった。
「お、お前……」
「なんだよ」
「頭良かったんだ、お前……」
「信じられない、みたいな顔すんのやめてくんねぇ? オレを何だと思ってるわけ」
オレが男鹿に勝てると言ったら、それはもう成績くらいのものだ。だからこれは是非、フフンとえばっていたいのである。
えばった所で男鹿が張り合おうとしたことなどなかったのだが、その日は違った。男鹿はその日一日、ショックを受けてぽかーんとして暮らしていた。まあ、いつもぽかーんとしてるようなものなんだけど。

それから一週間、気がつきゃオレは不思議と男鹿と口をきかなかった。
学校に行けば、男鹿の顔は見る。だから、ああ、あいつまだ生きてんだなーとは確認できるのだが、男鹿と接触することがない。一体いつからあいつと一緒にいるんだか忘れたけれど、こんなに近くにいるのに男鹿と口をきかないなんて初めてだった。
なんか変だ。

ついでに言うと、あいつが寄って来ない限り、実はオレたちに接点はないのだということも初めて知った。腐れ縁だなんだ、切っても切れない繋がりがあるもんだとばかり思っていたのに、案外簡単に切れるものなのだ、ということに、オレは多大なショックを受けていた。
「なぁ、男鹿」
ついに我慢できなくなったオレが話かけると、男鹿はびっくりしたような顔をして振り返った。
「んだよ、古市。もうオレとは友達やめるんだろーが」
「はぁ?」
いや、めんどーごとには巻き込んでくれるな、とは言ったけど、何も友達やめる、だなんて、そこまで言った覚えはねーよ。どこをどう解釈すると、そういう結論に至ったんだか全然わからんが。
男鹿が口をとがらせてむくれた。
「オレがいるとメーワクだって言ってたじゃねーか。だからせっかく近寄らないようにしてたのに」
それなのに、何でそっちから来るわけ? オレの努力は? と不満を漏らす。
「はぁぁ!? じゃ、何か。お前と喋らねーな、と思ってたのは、お前がこの一週間、わざわざオレんこと避けてたってわけ?」
「うん」
いけしゃあしゃあと頷いた男鹿の脳天に、オレは一発お見舞いしてやった。
ふざけんな。なんか腹立つ。
「オレはそんな極端なこと言ってない!」
オレたちの関係は、やめると言って、そんなに簡単にやめられるのか?
そんなヤワなもんなのか。ちげーだろ。
つーか、やめるも何も、始めた覚えはないしな。いつの間にかくっついてしまっただけなんだから。
「古市、何で怒るんだよ」
「そら怒るだろ」
「なんで」
「なんで、って……」
友達をやめたくないからに決まっている。迷惑だ、面倒だと言うわりに、オレはこいつから離れる気は毛頭ないということだ。
つまり、あれだ。そういうことだ。オレは案外、こいつが好きなのだ。そんなことは、オレも今初めて知ったけど。
なんだ、それ。恥ずかしい。
「知るか」
自分の胸のうちで出された結論を男鹿に告げる気にはなれず、オレは突き放したように答えた。男鹿は困ったような顔をする。
「古市はオレにどうしろって言うの?」
「それも知るか」
「無茶言うな!」
男鹿が吠えた。まあ、確かに無茶を言っている自覚はある。
巻き込むな、でもそばにいろ。
うん。矛盾だ。
だけどオレはどちらかを選べはしない。受験戦争忌避だって、男鹿だって、どっちも大切だ。どっちも捨てたくないというのはわがままなんだろうか。
「お前、オレと友達続行して、後で後悔すんなよ」
男鹿が神妙な顔をして言う。
「後悔ならもうしてるけど」
「え? マジで?」
「当たり前だ。お前のせいでわけのわからん連中に絡まれるわ、先生には目をつけられるわ、クラスから白い目で見られるわ」
我ながら言っていてむなしくなって来た。ありゃ? 男鹿と一緒にいても、何もいいことないんじゃねーの、これ。男鹿もそう思ったらしい。
「じゃあ、何で友達やめねーの?」
「知るか」
そりゃ、お前、デメリットよりメリットの方がデカイからに決まってる。世の中はそういう風に出来ているのだ。はたして、そのメリットとやらが本当にメリットなのかどうかはオレにもわからんが。
「そうか。お前も結構アホってことか」
男鹿は妙な納得の仕方をして、そう結論づけた。アホとは失礼な、と言い返そうかと思ったが、珍しく男鹿の方が正論を言っていたのでやめておいた。
「そうだ、男鹿、だから友達やめるとか変な気ィ起こしてんじゃねーぞ」
「おう」


一件落着。


と、まあ、ここで『めでたし めでたし』となれば良かったのに、そうはならなかったのが悲劇である。変な気を起こしたのは男鹿ではなくオレだった、というのを痛いほど知るのは、そう遠くない日のことであった。



end

20100527 ベタベタな話でさーせん。